第39話 明かされし横暴

「村長! こちらです!」

 一人の男の声が後方から響き渡り、僕はその方向を見た。

「まったく⋯⋯何があったというのだ? この歳で動き回るのはしんどいというのに⋯⋯」

 息を切らした村長が、男に連れられて現れた。

「おお⋯⋯! まさか⋯⋯」

 

『 一ノ瀬さんって、こんなに可愛かったっけ!?』第39話

アルサヒネ歴 八六五年一〇月二一日
月村蒼一は異世界で仕事をする

 村長は丘の上に立つウルフの群れを見て、驚愕の声を上げた。その視線は特に、中心に立つ黄金色に輝く一頭に向けられていた。

「来たか、モラレの村の長よ」

 金色のウルフは、低音の声を響かせた。

「言い伝えの聖獣『オーロウルフ』か!? 言葉を操る知恵ある狼と、古からの伝承で語られていたが、まさか実在するとは⋯⋯」

 村長は変わらず驚嘆していた。

「オーロウルフ⋯⋯?」

 僕は呟きつつ、グラシューの方を見たが、彼女は唖然と口を開けたまま、左右に首を振るだけであった。

「我の名は『ダルム』。この地のウルフを統べる者。また、精霊より命を受け、八〇〇年に渡りこの地の平定を司る。モラレの村の長よ、御主に話があり、ここに参った」

 村長が言う、聖獣とされるオーロウルフは、自らを『ダルム』と名乗った。彼は、村長に向かって落ち着いた口調を崩さずに声を発していた。

「わ、私に話ですと⋯⋯?」

 村長は、ひどく狼狽した様子を隠せないでいた。

「我らの主食とするラングロアが、最近異常にその数を減らしている」

 ダルムの言葉に、村長は大きく目を瞠っていた。

 僕はグラシューの方を見た。

「⋯⋯ラングロアって、あのクエスター達が狩ってたあの動物だよね?」

 僕の言葉に、彼女も何か確信めいたような表情を浮かべていた。

「⋯⋯うん、そだね」

 僕とグラシューは、コソコソと会話を交わしていた。

「それ故、我らは酷く飢えに苦しんでいる。その原因を突き止めねば、我らはその種を絶えることになる」

 ダルムのその言葉を聞き、僕とグラシューは村長を睨み付けるように見た。

 村長の表情は相変わらず、穏やかなものとは感じられなかった。

「ここ数年目立った異常気象もなく、ラングロアが激減している事実は、紛れもなくこの地の人間の手によるものと推し量っているが、真偽の程は如何なものか」

 村長は下を向き、しばらくの間立ち竦んでいた。

「我ら同志がこの村を矢庭に襲ったこと、大変遺憾なきことと存ずる。しかし、我ら同志はラングロアが減り、途方も無き飢えに苦しんでいることを鑑みれば、理無き行動ではなかろうとも存ずるが、如何か?」

「⋯⋯さて⋯⋯私には何のことやら」

 村長は苦笑いしながら答えた。

 またしばらく間を置き、ダルムは再び口を開く。

「そうか。何れにせよ、我らは生きる為、原因の芽を一つ一つ潰さねばならぬ。この事実に対し、主等が何の策も講じないようなら、この村、及びこの地域の人間を殲滅しようと考えている」

「な、何ですと⋯⋯!」

 淡々と語るダルムの言葉に、村長は叫び声を上げた。

 そんな村長を、相変わらず僕とグラシューは凝視していた。村長はチラリと僕らの方を見ると、実に気まずそうな表情を見せていた。

「村長、どーすんの? このままだと村の人、みんな喰われちゃうよ」

 グラシューは、彼女らしい軽やかな口調で、村長に警告した。

「僕らは見ました。僕らと同じくこの村に在中しているクエスター達が、狩られたラングロアを何頭も抱えているところを」

「な⋯⋯なんだと!?」

 村長は、僕の台詞に慌ただしく反応した。

「ラングロアが人間によって狩られているのは紛れも無い事実。ウルフのリーダーが言うように、ラングロアの狩猟を止めさせることが、この問題を解決する唯一の手段かと思います」

 僕は真剣な表情で村長に語った。

「その少年の言う通りだ!」

 僕の言葉に反応するように、周りにいた村人の一人が叫ぶように言った。

「そうだ! あんな大人しい動物を狩る必要はない!」

「ラングロアを狩るクエスター達が横暴で、ウチらは困ってるのよ!」

「こんなことで殺されたくねえぞ!」

 村人たちは、次々と声を上げ始めた。

 四面楚歌に陥った村長は下を向き、しばらく黙り込んだ。

「⋯⋯この村を思ってやったことだ」

 村長は呟くと、立て続けに口を開く。

「私はこの村の発展を願い続けてやったに過ぎない! この村は昔から貧しかった⋯⋯何の特産物もなく、侘しい村であった⋯⋯発展していかなければ朽ち果てていくこの時代の流れに乗るには、都会では稀少性があり、高く売れるラングロアを狩るしかこの村には無かったのだ!」

 村長は荒々しく語った。

 彼はさらに語気を強め、言葉を紡ぎ出す。

「豪華な宿と酒場が出来たのは何のお陰かと思う!? 荒れ果てた農道が綺麗に整備されたのも何のお陰かと思う!? 観光客も増え、ようやく村も賑わいを見せ始めた! 今更ラングロアの売買を止めるなど、出来るものか!」

 村長は、自身の思いをここぞとばかりに言い放ったように見えた。

「俺は昔のままでよかった! 貧しくてものんびりと暮らせればそれでよかった!」

「そうよ! あんな贅沢な宿も酒場も必要ない!」

 村長の強気の姿勢に負けじと、村人たちは反論していた。

「ぐ⋯⋯! くそ⋯⋯まだ来ないのか」

 そんな批判を浴びる村長だったが、僕は彼がしきりに周りを気にし、視線が村の外へ向けられ、何やら小声で呟いているのが気になっていた。

 村長と村人たちの揉み合う様子を、伝説とされるオーロウルフのダルムは、丘の上から凛然とした様子で眺めていた。

「我とて手荒な真似による解決は望まない。我らと共生の道を歩んで行くと契りを交わしてくれれば、我らはこの場を退くつもりである」

 ダルムは相変わらず理性的な口調を保ちつつ、語っていた。

「いかがでしょう、村長。ウルフのリーダーも、村人の方達もこう仰っていますし⋯⋯」

「ん!?」

 僕が村長に言いかけた時、グラシューが何かを感じ取ったのか、周囲をキョロキョロと落ち着かない様子で見渡した。

「どうしたの?」

「何か凄いマナを感じる⋯⋯」

「え⋯⋯?」

 次の瞬間、後方から何かが駆け付ける激しい音が聞こえ、僕は思わず振り返った。

 そこに、馬に乗った二〇名程の軍勢が、突如として現れていた。

 その軍勢を見た村人たちは驚愕し、ひどく狼狽えていた。

「おおっ! ようやく着きましたか!」

 それらを他所に、村長は弾ける笑顔を見せ、軍勢の下へ走って向かって行った。

 

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