第42話 危険な低級要員

 アルサヒネ地方の一国・キャリダット。

 その北部にある小さな農村であるモラレ村にて、アージェントウルフの集団と、それを駆逐せんとするクエスターとの闘争が激しく展開されていた。

 注目すべきは、A級上位クエスター『グラシュー・リィス』がウルフ側につき、S級下位クエスター『ノヴァ・サンライズ』がクエスター側のリーダーを担っているところにある。

 両軍の闘争が始まるやいなや、彼ら二人は一対一の攻防を交えた。

 二人は月末に行われるA級とS級の『入れ替え戦』において、ここ半年間、欠かさずに相見えている。その結果はというと、A級上位のグラシューは、S級下位のノヴァの壁に跳ね返され続けている。

 グラシューは闘争心剥き出しで、ノヴァに向かって行った。並のクエスターであれば致命傷を与えられんとするグラシューの攻撃を、ノヴァは嘲笑うかのように飄々と捌く。

 しかし、この日のノヴァの注意は、散漫としていた。

 

『 一ノ瀬さんって、こんなに可愛かったっけ!?』第42話

アルサヒネ歴 八六五年一〇月二一日
一線級戦士は片田舎で相見える

「どこ見てんだよっ!」

 グラシューは恐ろしいまで形相で叫び、隙を見せたノヴァの懐に素早く入り込み、彼の腹元で短剣を横に薙ぎ払う。

「おっと」

 ノヴァは間一髪のところでその攻撃を躱した。普段は難なくこなすところだが、この闘いにおいては、こうした危ない場面が目立つ。

 ノヴァは再び距離を取ると、グラシューとは明後日の方向をしきりに確認していた。彼がグラシューとの闘いに集中できていないのは、この場にいる一人の少年のことが気になって仕方が無いからである。

 その少年はクエスターであるが、バッジを付けていないことから、D級以下であり、大した実績を持っていないことを、ノヴァは容易に想像できた。そんな彼がこの争いに参加を申し出てきたわけだが、彼の実績でその行動は自殺行為に等しい。

 そして、明らかに不利と分かっているウルフ側に付くと言う少年に対し、ノヴァは彼が狂っているとしか思えなかった。

 しかし、その少年は自分が『バカ』であると自ら称し、ウルフ達に喜んで加勢するその状況を面白がっていた。そんな道化のような彼の行動が、ノヴァにとっては不気味に思えてならなかった。

 そんな少年の様子を見ようと、ノヴァは三人のC級クエスターに、彼の相手をするよう命じたが、彼はあっという間に彼らを地に伏せてしまった。

「へえ⋯⋯やるもんだね」

 次のターゲットを探して走る少年を見て、ノヴァは溢れ漏らすように賞賛の言葉を口にした。

 すると間もなく、グラシューが再びノヴァへの距離を詰め、彼女は短剣を振りかざしていた。

「あの彼は何者だい?」

 ノヴァはグラシューの攻撃を捌きつつ、彼女に問いかけた。

「彼!? 何だよ急に!」

 グラシューは激しく攻撃を繰り出しつつ、叫んだ。

「OJTを兼ねて、君の手伝いに来てるペーペーのクエスターかと思ってたけど、C級クエスター三人をあっという間に倒すとは、なかなかの手練れだね」

「ソーイチのこと!?」

 彼女は受け答えるものの、手を休めることなく、ノヴァを斬りつけていた。

「ソーイチは一週間くらい前に洗礼を受けたばっかり! でも、もう既にアタシと対等に闘えるくらいの実力を持ってる!」

「何だって⋯⋯?」

 ノヴァはグラシューの言葉を聞くと、再び周囲を見渡し、ソーイチと呼ばれたその少年を探した。

 すると、彼はまた二人のクエスターをダウンさせていた。

「一週間前だと⋯⋯!? そんなバカな!?」

 気の緩みが生じたノヴァの懐に、再びグラシューが飛び込んでいた。

「そうだよっ! まったくやってられないよねっ!」

 グラシューの放った斬撃は、ノヴァの腹元を直撃した。

「うっ⋯⋯!」

 その攻撃に怯んだノヴァは、グラシューとの間合いを空けると、膝をついた。

「もらったぁーっ!」

 ここぞとばかりに、グラシューは猛スピードでノヴァへ突っ込み、短剣を突き立てた。

「あれっ!?」

 グラシューの突きは空を切り、彼女はノヴァの位置を見失っていた。

「調子に乗るな」

 ノヴァはグラシューの背後に回っていた。

 そして、持っていた両刃の片手剣で、彼女の背中を斬りつけた。

「うあっ!」

 彼女は悲痛な叫び声を上げると、その背中からは血が滲み始めた。

「ふうっ⋯⋯その歳でそれだけ速い動きを身に付けているのは大したもんだけど、キミの動きは単調で読みやすいって、ずっと言ってあげてるだろ」

 ノヴァは、淡々とグラシューに注意を促していた。

「うっせぇ⋯⋯! よけーなお世話だっ!」

 彼女は声を荒げ、強く反発していた。

「やれやれ⋯⋯聞き分けの悪い。それはさておき、元々キミの素質には注目してて、その成長を見ていたかったけど、ボクらの将来を考えると、やはり早いうちに芽を摘んでおいた方が良さそうだ。キミが心を入れ替えてゴルシ派になる可能性なんて、これっぽっちも無さそうだからね」

「あたりめーだっ! だれがアンタらなんかとっ⋯⋯!」

 グラシューは再び構えを取った。

「それよりも、危険なのはあの少年の方だ。ソーイチと言ったっけ? 洗礼を受けて一週間なんて話は、とても信じられないけど、もし本当だとして、彼がこれから敵になるとしたら、実に厄介な話だ」

 ノヴァは精悍な顔をして語ると、数本の指を口に入れ、甲高い音を鳴らした。

「いったん作戦を変えるよ。でも、すぐに殺してあげるから、ちょっと待っていなよ」

「はあっ⋯⋯!? 何言って⋯⋯」

 グラシューがそう言いかけると、ノヴァはすぐさま彼女の下から離れていった。

 そして、ノヴァが率いるクエスター集団は、彼の下へ集まっていった。

 

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