第55話 狼煙を上げた一大事業

 ラクティ殲滅及びフェーム奪還計画、そんなハプス派クエスターにとっての一大事業が、今まさに行われようとしていた。僕らハプス派クエスター集団は、フェーム近くでキャンプを張り、朝を迎えた。

 僕らは準備を整えると、そこから数キロ程歩き、巨悪に制圧された街を目指した。僕も三〇人程の集団の中に交じり、その中で足並みを揃えて歩いていた。

 フェームの門の前辺りに到着すると、物騒な格好をした男二人が、その入り口を塞ぐように立っていた。

 集団の先頭を歩くハプスさんは、その門番と思われる男たちに目を合わせた。

 

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『 一ノ瀬さんって、こんなに可愛かったっけ!?』第55話

アルサヒネ歴 八六六年二月一二日
月村蒼一は異世界で頂点に挑む

「何だ? お前たちは?」

 門番の一人が声を荒げて言うと、その男たち二人は手にしていた長い槍を構えた。

「名乗る程の者ではないわ。この街に用があってきたんだけど、どうやったら入れてくれるかしら?」

 ハプスさんはいつもと変わらず、淡々とした表情と口調で答えていた。

「関係者以外は立ち入り禁止だ。とっとと失せろ」

「ふーん。じゃあ無理矢理入るしかないってわけね」

 ハプスさんは、門番達の目をじっくりと見ていた。

「何だこのガキ⋯⋯死にたくなかったらさっさと⋯⋯!?」

 すると、ハプスさんに見つめられた男達は、急に目を大きく見開いた。

「がああああああっ!」

「ぐぎゃああああああっ!」

 ハプスさんはどんな術をかけたのかわからないが、二人は頭を抱え悶絶し始めた。

「私たちをアンタ達のリーダーのところへ案内してくれない? そうしたら、痛みを取ってあげる」

「ぎぃぃやああぁあぁ! そんな⋯⋯そんなことをしたら俺たちは⋯⋯ひぃいいいい! 許して⋯⋯」

 地べたに寝転んで苦しむ門番たちは、しばらく経ってもハプスさんの取引に応じることはなかった。そして、二人は痛みに耐えかねたのか、そのまま気を失ってしまったかのように、動かなくなってしまった。

 僕は集団を掻き分け、倒れた二人の様子を確認した。

「⋯⋯死んじゃったんですか?」

 僕は恐る恐る声を発した。

「私がかけたのは、神経だけを刺激して、身体に傷を付けることなく、痛みだけを感じさせる術。しばらくしたら、目を覚ますだろうから安心して」

「また、随分と器用な技をお持ちですね⋯⋯」

「たしかに、複雑な想像をしてる。その分、面倒な技だから、一般人や程度の低いクエスターにしか通じない。ということは、彼らは大した力を持った構成員じゃないってことね」

「なるほど⋯⋯」

「それにしても、下っ端の彼らでさえ、気を失うくらい痛みに耐えてまで、私の要求に応えなかった。敵の忠誠心は、なかなかのものね」

 ハプスさんはを顎に手をやりながら、倒れた門番達を凝視していた。

「ねえ〜! 何してんの? そいつらぶっ倒したんでしょ? 早く中に入ろうよ〜!」

 群衆の中からグラシューのものと思われる、やや品性に欠けるも、彼女らしい溌剌な声が聞こえた。

「そうね、いちいち悩んでても仕方ない場面だし。みんなも改めて準備はいいかしら?」

「おう!」

「勿論ですとも!」

 ハプスさんが仲間達に声を掛けると、すぐさま威勢の良い返事が次々と発せられた。

「それじゃあ、行きましょう」

 ハプスさんは三〇人程の集団を引き連れるように、堂々とその小さな身体を前に進めていた。僕も大船に乗った気分で、集団に引っ張られるようについて行った。

 今日の天気が一面灰色に覆われた曇天であることも原因の一つかもしれないが、フェームの街の中は、何か淀んだ空気に満ちているような雰囲気があった。

 僕らは街の中を集団で歩いていると、ある建物の軒下にて、一人で座り込んでいる中年男性の姿を見つけた。

「ちょっといいかしら?」

 ハプスさんはその男に声を掛けると、男は顔を上げ、僕らを見上げた。

 その瞳からは、生気がまるで感じられなかった。

「なんでぇ⋯⋯もう仕事の時間か」

 男は重そうに腰を上げようとしていた。

「仕事の時間? 随分と辛そうね。無理に立ち上がることはないわよ。私たちは聞きたいことがあるだけ」

 男はハプスさんに言われると、立ち上がるのを止め、そのまま座り込んだ。

「何モンだアンタら?」

「私たちはこの国のクエスター。今この街を牛耳っているラクティのリーダーと話がしたいんだけど、どこにいるか知らないかしら?」

「クエスター⋯⋯!? ラクティのリーダーと話がしたいだと?」

 男はしおれ切った瞳を見開いて声を上げ、しばらくハプスさんの顔を見ていた。

「あなたはラクティの人員ではなさそうね。この街の住民かしら?」

「ああ⋯⋯そうだが?」

「差し支えなければ、あなたがラクティにされている仕打ちを教えてくれない? 私たちはラクティの非道な支配を止める為にやってきたの」

 ハプスさんは男に問いかけて安心させようとするも、男は俯いてしばらく黙り込んだ。

「ありがてえ話だが、悪いことは言わねえ。ヤツらに関わるのは止めておいた方が身の為だぜ」

「ええ、十分承知してるわ。ただ、私たちもそれなりの勝算を持ってここに来てる。ごめんなさいね、来るならもっと早く来いって話なんだけど、ラクティに対抗できる戦力が整うまで、かなり時間がかかってしまったから」

 男は再び顔を上げ、僕ら集団の方を見回していた。

「⋯⋯俺たちは朝から晩まで無給で働かされては、ロクな食事もよこされねえ。仕事以外の時は、牢屋みてえな汚ねえ部屋に集団で寝かせられ、まるでドブネズミにでもなったかのような気分だ」

 男は淡々と自身の惨状を語り出した。

「俺はあんな部屋で寝るくらいなら、外で寝た方がマシ。だから、さっきまでここで一晩を過ごしてたってわけさ」

 僕はそれを聞き、思わず男の下に駆け寄っていた。

「本当にごめんなさい⋯⋯! 長い間そんな生活をさせて⋯⋯。必ずラクティにそんなことは止めさせます! お願いします、ラクティの居城はどこにあるのか、教えて下さい!」

 興奮した僕の言葉の勢いに圧されたのか、男は少し身を引いていた。

「あ、あの一際高い、塔みたいな建物がそうだ。道もそんなに入り組んでねえから、あそこ目指して歩いていけば辿り着くと思うんだが⋯⋯」

 男はそびえ立つ建築物を指差した。

「あれですね! ありがとうございます!」

「でも⋯⋯本当に大丈夫なのかよ? あいつらのアジトに行くなんて、いくら命があっても足りねえぜ?」

「大丈夫です! なんたって自分たちはハプス派の選ば⋯⋯」

「なんだテメエらはっ!」

 僕が男に言いかけると、突然遠くの方から叫び声が聞こえ、甲高い笛の音が鳴り響いた。

 僕は声がした方を見ると、物騒な格好をしたイカツイ集団が五人ほどこちらに走って向かって来ていた。

 さらに、四方八方から似たような人影が湧き出るように現れ、それらも徐々にその姿を鮮明にしていった。

 とても数え切るに堪えない、少なくとも僕らよりも多い軍勢が、目の前に殺到してきていた。

「見ねえ顔だな? 誰の許可があってここに入ってきた?」

 その中の一人が、威嚇するような目でこちらを見つつ、言い放った。

 彼らがラクティの人員だと言うことは何となくわかった。住民の男の話を聞いた僕は、彼らに対する憎悪を燃やす他なく、表情は自然と眉間にしわが寄った。

「あなた達こそ、誰の許可があって、この街の住民の方々を奴隷のように扱うっていうんですか?」

 僕は彼らを睨みつけながら言い、短剣を引き抜いていた。

「ちょっとソーイチ、落ち着いて⋯⋯」

「なんだこのガキ⋯⋯ぶっ殺されてえのかっ!?」

 ハプスさんが、僕を制止するような台詞を口にするのが聞こえた。

 しかし、相手集団の先頭に立つ男はそれに構わず、僕に刃を掲げて襲いかかってきた。

 僕はマナを集中させると、すぐさまその男の動きがスローモーションに変わった。コマ送りの映像を見ているような男の動きを見る限り、彼との実力差が相当あることは判然としていた。

 僕は男の懐に飛び込み、彼の胸元に斬撃を放った。

「があああああっ!」

 男の断末魔の叫び声が響き渡り、彼はそのまま倒れ込んだ。

 僕は間髪を入れず、相手集団を睨みつけた。

「俺を襲うなら、最低でも一〇人は一斉にかかってきた方がいいですよ」

 僕が脅しをかけるように忠告すると、ラクティの人員達は少し怯んだように見えた。

「コラっ! ソーイチ!」

 背後から、僕を叱りつける声が聞こえた。

 僕はそれに反応し、振り向いた。

「君は雑魚なんか相手にしてちゃダメ。ソーイチにはリーダーと闘わせるつもりだから、こんなところで消耗しないで」

「あ⋯⋯そうなんですか?」

「ソーイチはウチのエースなんだから、そのつもりでいて。ここは仲間に任せて、君と私、あとリチャードとグラシューで本陣に乗り込むわよ」

 ハプスさんは、ラクティの居城かと思われる建造物を指差した。

「で、でも⋯⋯」

 僕は敵の数の多さを見ると、仲間達が無事で済むかどうか心配せざるを得ず、戸惑った。

「大丈夫だ。ウチのメンツは、そんなにヤワじゃねえよ」

 リチャードさんは僕の肩に手を置き、諭すように言った。

「そうだ! ここは俺たちに任せとけ!」

「思う存分暴れてこい! エース!」

 仲間達の一部が叫ぶと、彼らは相手集団に向かっていった。それにつられるように、ハプス派クエスター達は次々とラクティの集団に流れ込むように立ち向かっていった。

 そして、激しい攻防が繰り広げられた。

「おし! いこーぜソーイチっ! さっさとこんな奴ら、ぶっ潰してやろうぜっ!」

 今度はグラシューが僕の腰の辺りを叩きつつ、声を掛けてきた。

「⋯⋯わかった。ここはみんなを、仲間を信じてってヤツだね!」

 僕は声を張り上げると、短剣を収め、走る態勢を取った。

「さて、四人の意志は固まったようね。それじゃあ、行くわよ」

 ハプスさんの掛け声と共に、僕たち四人はその場から一斉に駆け出した。

 

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