第64話 祝いの席の乱入者
ハプス派クエスターが、ラクティ壊滅とフェーム奪還を果たした、五日後。
僕はヌヴォレのバーにいた。
目の前には、グラシューとバリーがいる。
僕ら三人は、飲み物が注がれたグラスを持っていた。
『 一ノ瀬さんって、こんなに可愛かったっけ!?』第64話
アルサヒネ歴 八六六年二月一七日
月村蒼一は異世界で頂点に挑む
「そ、それでは、フェーム奪還を祝して⋯⋯」
「かーんぱーい!」
僕の辿々しい掛け声の後に、グラシューが大きな声で言うと、僕らは飲み物の入ったグラスを搗ち合わせた。
その後、三人同時に飲み物を口にした。
「うげぇ⋯⋯アタシ、やっぱり酒はムリかも⋯⋯」
グラシューは気持ち悪そうに言うと下を向き、グラスを置いた。
「だから無理するなってのに⋯⋯」
「だってさー、こういう時くらいお酒飲めないと、何となく寂しいじゃん? せっかくの祝勝会なんだからさぁ〜!」
慣れない行動をする彼女の威勢は収まるどころか、むしろ増していた。
一方のバリーは、何か申し訳なさそうな顔で、こちらを見ている。
「ん? バリー、どうしたの? 何かさっきから大人しいけど」
「え⋯⋯ああ⋯⋯」
僕は、柄になく縮こまっているバリーに声を掛けた。
「何かさ⋯⋯ホントにこれって現実なのかなって」
「えっ? 現実?」
僕は目を大きく見開きながら彼の顔を見て、グラスを口にしていた。
「いや、お前達が同い年の友達なのは間違いないと思うんだけど⋯⋯この国のトップクエスターでもあるんだよな? オレなんかがお前達の友達で、本当にいいのかなって⋯⋯。夢でも見てるんじゃないかって」
力無く喋るバリーの側にあるグラスの中の飲み物は、なかなか減る気配がなかった。
「なーにシケタこと言ってんの! カンケーないでしょ、そんなこと!」
グラシューが、溌剌とした声を発した。
「アタシ達は同い年の繋がりで、それ以上でもそれ以下でもないっ! 出身とか身分とか、そんなものはカンケーないしっ! 単純に気が合うから、こうしていつもの通りバカ騒ぎしようってワケでしょ?」
僕はグラシューの方を一瞥した後、バリーの方に目をやった。
「そうだよ、あまり深く考えないで欲しいな。君の故郷に平和が戻ったことを、素直に喜んでもらいたい。じゃないと、俺たちもやった甲斐がないからさ」
「⋯⋯だよな! 悪りぃ!」
バリーはグラスを口に持っていき、勢いよく中の飲み物を減らした。
「おおっ、いい飲みっぷりじゃん! そうだ〜、もっと飲んじゃってよ! 今日はウチらのおごりだ! 気にせずいっちゃって! ねえねえ〜、ジャスタさん、お肉まだ〜!?」
グラシューは、カウンターの方を向いて叫んでいた。その奥の方からジャスタさんが出てきて、料理の盛り付けられた皿を持ち、こちらに向かってきた。
「まったくオメエら、昼間っから飲んだくれやがって」
彼は呆れ顔で笑いながら、香ばしい匂いのする肉料理を、僕らの席に持ってきてくれた。
「いいじゃないっすか〜、こんな日くらい。わぁ〜、チョーいい匂い!」
「まあ、ほどほどにしとけよ」
ジャスタさんは、呆れ顔で笑いながら僕らを軽く注意し、カウンターへと戻っていった。
その時であった。
バーの入り口に、重装備を身に付けた武骨な集団が入ってきた。
「え、何、あの人達?」
「さあ⋯⋯」
グラシューから溢れ出したような疑問符に、僕は弱々しく呟いて答えるしかなく、せわしなく入ってくる集団を見ていた。
彼らはジャスタさんを見つけるやいなや、彼の下に歩み寄って行った。
「おう? 王宮の兵士様たちが、ここに何の用でえ?」
「ソーイチという少年はいないか?」
「ソーイチ? アイツならあそこにいるが」
ジャスタさんは武骨な集団の先頭に立つ男に問われると、僕の方を向いて指差した。
「ご協力感謝する」
先頭の男がジャスタさんに謝辞を述べると、集団は僕らの三人の席の方に歩いてきた。
「な、なんだアンタ達はっ!?」
集団を見たグラシューは、慌てた様子で叫んでいた。
「ソーイチとは御主のことか?」
「は、はい。そうですけど⋯⋯」
集団の先頭に立つ男に、僕は歯切れの悪い返事で答えた。
「我が国の王が、御主とお会いになりたいとのことである。今すぐ御同行願いたい」
真剣な眼差しで頼まれた僕は、目を丸くして彼の顔を見た。
「え⋯⋯? 王が俺に?」
僕は意図せず呟くと、グラシューとバリーの表情を確認し、再び男の顔を見た。
「それは⋯⋯断れない感じですか?」
「王の招集は、絶対的な法的効力を持つ。それに応じないことは、重罪である」
厳しい口調で言われた僕は、再び、二人の顔を見た。
「⋯⋯ごめん、何かそういうことみたい。俺抜きでも大丈夫?」
僕が申し訳なく言うと、二人は、互いに顔を見つめ合った。
「行ってこいよ。王様に呼ばれるなんて、滅多なことじゃないぜ?」
バリーは僕の方を振り向き、笑顔を見せながら明るく言ってくれた。
ただ、グラシューは何か浮かない顔をしていた。
「帰ってきたら、また土産話聞かせてくれよ! なあ、グラシュー、別にいいよな?」
バリーは、グラシューの方を見て問いかけた。
「えっ⋯⋯ああ、まあ⋯⋯仕方ねっか」
グラシューは、言葉に詰まりながら答えていた。
「ごめん⋯⋯! すぐ戻るからさ!」
僕は、二人に向かって手を合わせながら立ち上がり、集団の方を向いた。
「じゃあ、行きますんで。よろしくお願いします」
「承知した。では、我々について参れ」
物騒な金属音をたてながら歩き始めた集団の後に、僕はついて行った。