第94話 戦いの果てに得たもの

 僕は、キャリダット側の選手控室に戻った。

 ハプスさんが静かに眠っているだけの、寂しい空間が広がっている⋯⋯はずだったのだが。

 

『 一ノ瀬さんって、こんなに可愛かったっけ!?』第94話

アルサヒネ歴 八六六年五月一三日
月村蒼一は異世界で再会を果たす

「お疲れさん!」

「ナイスファイト!」

 大勢の人々が、僕をスタンディングオベーションで迎え入れてくれた。

 そこに立つ人々は、みんな見覚えのある顔だった。

 ハプス派のクエスター達、またはヌヴォレのスタッフ達など、僕と親しい人達が、温かい拍手と労いの言葉を、勿体ない程にかけてくれた。

「え、えっと⋯⋯、みなさん、どうしてここに?」

「どうしてもこうもねえだろ!? オレたちの仲間が大仕事をやってのけたんだ。みんな、お前さんの帰りを待ってたんだよ」

 集団の中でも、一際大きい身体を持つジャスタさんが、陽気な口調で答えてくれた。

「俺の⋯⋯帰りを?」

「お前さんが精霊の使いだろうがなんだろうが、オレたちの家族であることには変わりねえ! ホレ、とっとと帰ってこい!」

「え、ええっ!?」

 ジャスタさんは強引に僕の腕を引っ張り、集団の中心に押しやった。

「このやろう! 心配かけやがって!」

「お前はどこまで凄くなれば気がすむんだよっ!」

 ひたすら頭を叩かれた。

 大量の水をかけられた。

 僕の痛め付けられた身体が集団に抱えられ、何度も宙を舞った。

 所謂、胴上げ。

 そんなサヨナラヒットを打ったヒーローの如く、僕はひたすら手荒い祝福を受けた。

 ようやく、仲間達の溜飲は下がったようで、僕に対する手荒い祝福は止んだ。

「で、体は大丈夫なんかよ、ソーイチ?」

 心配そうに声をかけてきたのは、バリーだった。

「こんな暴力紛いの祝福をしといて、今さらそんなこと言う⋯⋯?」

「あっ、それもそうだよなっ!」

 彼がそう言うと、周囲から笑いが起こった。

「そういえば⋯⋯」

 僕はある人のことが気になり、周囲を見渡した。

「どうした?」

 バリーが僕の振る舞いに反応した。

「ハプスさんは⋯⋯大丈夫なのかな?」

 僕がそういうと、みんなは一斉にひとつの方向に目をやった。

「あっ⋯⋯!」

 その方向の先には、ベンチに静かに座るハプスさんの姿があった。

 僕は彼女に向かって、歩き出した。

「ハプスさん、大丈夫なんですか!? 横になってなくても⋯⋯」

「こんなにうるさく騒がれて、寝ていられると思う?」

「そ、それもそうですね」

 僕は軽く頭を掻いた。

「私は別に平気だから。君の方が重傷なんだから、少しは自分の心配をしたら?」

「いや⋯⋯俺は別に⋯⋯」

「それに、私の心配なんかしてる場合?」

「え⋯⋯?」

 僕は彼女のふとした問いに、目を丸くした。

「もっと心配かけた人がいるんじゃない? きっと怒ってるわよ、君の大事な師匠は」

 ハプスさんは僕の顔とは別のところに視線を向け、微笑を浮かべていた。

 彼女の視線の先⋯⋯、

 そこには、腕を組んで僕を睨みつける少女がいた。

「な、何かご機嫌がよろしくないようで⋯⋯」

「謝ってきたら?」

「⋯⋯怒らせるようなことをした覚えはないんですが⋯⋯そうします」

 僕はなぜか不機嫌な、いや、いつも僕に対して不機嫌な師匠の下へ歩き出した。

 僕はグラシューの目の前まで来ると、彼女の膨れ上がった顔をじっと見つめた。

 しばらく、僕らは見つめ合った。

「⋯⋯あのさ、心配かけんなって、アタシいつも言ってるよね?」

 彼女の方から、沈黙を切り裂いた。

「⋯⋯ゴメン。心配かけたつもりは、なかったんだけど⋯⋯」

「そういうこと言っちゃう? あのクレアってコに抵抗もせずにボコボコに殴られて、足もフラフラになって、最後は首を絞められて」

「あ⋯⋯いや⋯⋯そうだけどさ⋯⋯」

「しかも、アタシの買ってやった剣と盾、ボロボロにしやがったな。けっこう高かったんだぞ」

「それは⋯⋯ホントにゴメン。今日の賞金で新しいの買います⋯⋯」

「ダメだね。プラス、心配かけた慰謝料込みで、最近、シンセーロの近くに出来たオシャレな高級レストランのディナーに連れてくこと」

「うぅ⋯⋯マジか。他に欲しいものあったのに⋯⋯」

 僕は項垂れる素振りを見せるも、内心はホッとしていた。

 こうしてグラシューにどやされる日々が、ようやく戻ってきたのかと。

「全く、愛情の照れ隠しなんて言うが、お前はホントに素直じゃないな、グラシュー」

 僕とグラシューの間を割るように、リチャードさんが声をかけてきた。

「ソーイチがタコ殴りにされてる間、コイツ、今にも泣きそうな顔をしてな」

「ち、ちょっと! リチャードさん、何言って⋯⋯」

「首絞められた時なんか、コイツ試合場に飛び出しそうになって、止めるの大変だったんだぜ?」

「やめてよーっ!」

 グラシューは顔を赤らめて、リチャードさんの服を引っ張っていた。

 リチャードさんは小馬鹿にするような笑顔を見せ、それにつられて周囲からも大きな笑い声が起こっていた。

 ここ一ヶ月間、僕は精霊の使いという立場を全うしようと、孤独な戦いを続けていた。

 今後、僕はそんな日々が続くものかと思っていた。

 しかし、彼らの笑い声がそれを忘れさせてくれた。

 僕には帰る場所がある。

 落ち着ける居場所がある。

 しかもそれは、不変的なものである。

 己を信じ、世の平穏の為に戦い続けた結果得たものは、かけがえのない人達との繋がりだった。

 彼らさえいれば、きっと僕は戦い続けられる。

 そう確信した僕は、彼らに合わせて笑い声を上げた。

 

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