実に羞恥な瞬間である。勝手に逸走して外を回った馬はいるが、騎手が意図的にレースをやめさせ、外を回してしまうなど、前代未聞である。

乗っていた騎手が新人だったとはいえ、由々しき事態である。ましてや人気馬だっただけに、被害を被った方も少なからずいるはずだ。書いている小生も、実はその一人。怒り心頭であった。

しかし、最も怒りに燃えるべき人物は、若き才能の将来を見据え、感情に身を任せることは一切なかった。

己の傲慢さに、顔を赤らめた。

 

山田敬士騎手がレースの距離を間違える

2018年10月13日、新潟6Rダート2500メートル戦で、2番人気ペイシャエリートに騎乗していた山田敬士騎手(21)がそのレースの距離を誤った。

1周目の直線半ばでムチを入れてスパートをかけ、ゴール板通過後、馬を外めに誘導してスピードダウン。内から後続に次々と追い抜かれ、最後は圧倒的な最下位でレースを終えた。

JRAは14日から裁定委員会の議定があるまで、同騎手を騎乗停止処分に。JRAによると、競走距離の錯誤による騎乗停止は史上初という。

山田騎手は今年3月デビューの新人騎手であるが、その3人の中で最多となる7勝を挙げている有望株。そんな彼が、一体なぜ?

 

スポンサーリンク

山田騎手がやらかした距離誤認とは?

山田騎手が一体何をやってしまったのかというと、このように2周しなければならないレースを、

 

1周で終わりと勘違いしてしまったのである。

 

1周目の直線で必死に鞭を振るう山田騎手

1周後、外へと馬を寄せていく山田騎手

内を走る馬を気にする山田騎手

 

まとめると、こんな感じのレースであった。

 

なぜ、このようなことが起こってしまったか。無論、騎手の経験もあることだろう。ただ、新潟ダート2500mというコースが、年に数回しか試行されない珍しいコースだからという点も無視できない。

馬が1周目をゴールと勘違いしてペースを上げて騎手を困らせてしまった例はある。それはかの有名な名馬・ディープインパクトであるが、そんな馬を御する騎手がゴールを勘違いしては、さすがに言語道断と言わざるを得ない。

ただ、山田騎手は新人ながらすでに特別レース(賞金が高く、経験のハンデがつかない)を勝っており、前述通り、新人の中でも最も多く勝利数を伸ばしている。前代未聞の珍事と語り継がれるであろうこの一件だが、それはむしろ山田騎手の天才肌が悪い方向に出てしまったのかもしれない。

他に類を見ない感覚を持った騎手として、山田騎手が今後前例のない快挙を成し遂げる可能性は十分にある。

※2018年11月8日追記
山田騎手はJRAの第2回裁定委員会の審議の結果、2019年1月13日まで3カ月の騎乗停止処分になることが決定した。

制裁としての騎乗停止期間は長くとも1ヶ月弱ほどであり、上記の期間が異例の長さであることが分かる。山田騎手にとっては酷な話となったが、JRAとしても最重要顧客である馬主に示しを付ける為、やむを得ない裁定だったのだろう。

 

スポンサーリンク

山田騎手の家族

山田騎手は母親の女手ひとつで兄弟3人と共に育てられた。ジョッキーになる夢を応援してくれた母への孝行が今の目標だという。

1周先にあるはずゴール板が手前に見えてしまったのは、母親への親孝行を成し遂げとげたかった為の、焦りの表れだったのかもしれない。

母の前で勝ったことがないという彼だが、今は、この騎乗をしっかりと反省し、次に活かしていくことが肝要だろう。

 

山田騎手と北所オーナーとの信頼関係

山田騎手に前例の無い騎乗ミスをされ、勝てるかもしれないレースでまさかのシンガリ負け。その後リズムを崩したのか、ペイシャエリートは引退を余儀なくされた。

ペイシャエリートの全成績

 

馬を壊された身としては、さぞかし怒りに燃えていることかと思いきや、当のキタジョファーム代表取締役の北所直人氏は、山田騎手にこのような言葉をかけたという。

https://twitter.com/chan_calimero/status/1082523560676012032

 

キタジョファームは重賞馬を輩出したことのない、小さな牧場。つまり1勝1勝が実に重いのである。それでも尚、オーナーのこの懐の厚さ。馬券を紙屑にされたことに腹を立てていた己の身が、実に恥ずかしくなる。同じ人間として、北所直人という男に最上級の賛辞を送りたい。

そして、2019年2月10日。山田騎手は再び北所オーナーの馬の背に跨った。その馬は2年近く勝ち星から遠ざかっている5歳馬・ペイシャボム。人気薄だった当馬だったが、山田騎手は北所オーナーの人情に応えるが如く、見事な騎乗でペイシャボムを先頭でゴールに導いた。

1、2番人気馬の追撃を抑え、先頭でゴールするペイシャボム

 

世知辛く強欲に塗れた現代社会において、実に心温まる出来事。これからも山田敬士騎手の成長を見守っていきたい。

ペイシャボムで今年初勝利をあげた山田敬士騎手

 

唯木絢斗@oaonly180415をフォロー